年々厳しさを増す日本の夏。温暖化の影響もありこれまでの常識が通用しない暑さが続いています。
2025年夏も全国的に平年より高い気温が予想され熱中症対策の重要性がこれまで以上に高まっています。新しい警報システムや最新の予防法など、熱中症対策に役立てましょう

「熱中症特別警戒アラート」を活用

2024年から新たに導入された「熱中症特別警戒アラート」をご存知ですか?これまでの「熱中症警戒アラート」よりも一段階高いレベルの警報です。広範囲でこれまでにないほど危険な暑さが予測される場合に発表され、健康への深刻な影響が懸念される状況を知らせてくれます。

このアラートの特長は、単なる注意喚起にとどまらず、家族や地域社会での「見守り行動」を促す点にあります。アラートが出された際は、まず自分自身の暑さ対策を見直すのはもちろんのこと、特に熱中症のリスクが高い高齢者や子どもに声をかけたり、様子を確認したりすることが大切です。また、スマートフォンのアプリや自治体の防災メールなどからアラート情報を確実に受け取れるよう、あらかじめ設定しておくことも重要です。
とくに一人暮らしの高齢者が多い地域では、ご近所同士の助け合い体制を日頃から築いておくことで、いざという時に迅速に対応でき、熱中症による重大な事故を未然に防ぐことができるでしょう。

水分補給の常識・量より質とタイミングが鍵

これまで「のどが渇く前に水分をとること」が大切とされてきましたが、現在のような厳しい暑さでは計画的な水分補給が必要とされています。ただ水を多く飲むだけでは体内の塩分バランスが崩れ、体調をくずす原因になりかねません。
効果的な水分補給のポイントは、少量ずつこまめに飲むことと、塩分やミネラルをしっかり補うことです。理想的なのは15〜20分ごとにコップ半分ほどの水分をとること。一度に大量の水を飲むと胃腸に負担がかかり、吸収も悪くなります。

水だけでなく経口補水液やスポーツドリンクを取り入れることで汗で失われた塩分やミネラルを補い、体のバランスを保つことができます。
またカフェインやアルコールの入った飲み物は利尿作用があり水分補給としては不向きです。朝起きたとき、入浴後、就寝前など脱水しやすい時間帯に水分をとる習慣をつけておくと安心です。体調の変化にも気を配りながら適切なタイミングと量で水分を補いましょう。

室内環境の最適化・エアコン設定に気を配る

現在は室内での熱中症が増加しています。エアコンの適切な使用方法を理解することは生命に関わる重要な知識で、「冷房28度設定」という従来の目安は現在の猛暑環境では適切でなく、個人の体調や活動レベルに合わせた調整を行いましょう。

推奨される室内環境は温度25-27度、湿度50-60%の範囲です。重要なのは温度だけでなく湿度のコントロールで、湿度が高いと体感温度が上昇して汗の蒸発による体温調節がうまくいきません。除湿機能を併用することでより快適で安全な環境を作ることができます。

エアコンの風向についても、冷風が直接体に当たり続けると体温調節機能が混乱し、室外に出た際の暑さへの適応力が低下します。サーキュレーターや扇風機を併用して室内の空気を循環させて均一な温度環境を作ることが理想的です。就寝時はタイマー設定ではなく一晩中つけっぱなしにすることが推奨され、熱帯夜による睡眠中の熱中症を防ぐことができます。

機能性素材を活用した洋服で体温調節

気候変動時代の服装選びでは見た目だけでなく快適性や体温調節機能を重視しましょう。最新の機能性素材を活用することで、厳しい暑さの中でも体を効果的に冷却して熱中症リスクを大幅に減らすことができます。

吸湿速乾性に優れた素材が理想的です。綿100%の衣服は肌触りは良いものの汗を吸収した後の乾燥が遅く、かえって体温上昇の原因となる場合があります。ポリエステルやナイロンベースの合成繊維、特にクールビズ対応として開発された高機能素材は、汗を素早く吸収し外気へ放出する能力に優れています。

白色や薄い色は太陽光を反射して体温上昇を抑制しますが最近では特殊な織り方や繊維構造により、濃い色でも遮熱効果の高い素材が開発されています。UVカット機能付きの衣服を選ぶことで日焼けによる体力消耗を防ぎ、間接的に熱中症予防に貢献します。
黒色は紫外線から肌を守ってくれますが、太陽の熱を吸収しやすいため衣服自体が熱くなり、体温上昇の原因となるため注意が必要です。

つばの広い帽子や日傘の使用は基本ですが冷却タオルやネッククーラーなど、首や手首の血管を冷却するアイテムを活用することで、効率的に体温を下げることができます。靴選びでも通気性の良いものを選び厚手の靴下は避けるなど、足元からの放熱も考慮した装いを心がけましょう。

食事による内側からの熱中症対策

体温調節機能を維持して熱中症を予防するためには、外側からの対策だけでなく食事による内側からのアプローチが欠かせません。特に猛暑が続く期間中は栄養バランスを意識した食事により体の熱対応能力を高めましょう。

水分量の多い食材を積極的に摂取すれば食事による水分補給が可能です。きゅうり、トマト、スイカ、なすなどの夏野菜は水分含有量が多く、同時にカリウムやビタミンCなどの栄養素も豊富に含んでいます。これらの栄養素は汗によって失われやすいミネラルを補給し疲労回復にも役立ちます。

香辛料を適度に使用した料理は発汗を促進することで体温調節を助けます。インドや東南アジアなどの暑い地域で辛い料理が発達したのは気候に適応した知恵と言えるでしょう。生姜、にんにく、唐辛子などは血行を促進して新陳代謝を活発にする効果があります。

避けるべきなのは糖分や塩分の過剰摂取です。アイスクリームや清涼飲料水を大量に摂取すると血糖値の急激な変動により体調不良を招く可能性があります。
ビアホールが楽しみな季節ではありますが、アルコールは利尿作用により脱水を促進するため、暑い日の飲酒は注意が必要です。食事のタイミングも重要で消化による体温上昇を避けるために気温の高い時間帯での重い食事は控えて少量ずつ複数回に分けて摂取しましょう。

予兆を見逃さない!早期発見と対処法の習得

熱中症の重症化を防ぐためには初期症状を正確に認識し、適切な対処を迅速に行うことが何より重要です。基本的に熱中症は突然発症するのではなく軽微な症状から徐々に進行していくため、早期発見のサインを見逃さないことが鍵となります。

初期症状として最も注意すべきはめまいや立ちくらみ、大量の発汗です。これらは体温調節機能が限界に近づいているサインでありこの段階で適切な対処を行えば重症化を防げる可能性が高くなります。筋肉痛やこむら返り、頭痛、吐き気なども熱中症の前兆として現れることが多く、「いつもの疲れ」と軽視せずに体を冷却し水分補給を行うことが大切です。

対処法の基本は「移動・冷却・水分補給」の3つです。まず涼しい場所への移動は最優先。屋内であればエアコンの効いた部屋、屋外であれば日陰で風通しの良い場所を選びます。次に、首、脇の下、太ももの付け根など、太い血管が通る部位を集中的に冷却します。保冷剤や氷嚢がない場合は冷たい缶ジュースやペットボトルでも代用可能です。

水分補給では意識がはっきりしている場合は経口補水液を少しずつゆっくりと摂取します。
意識がもうろうとしていたり嘔吐を繰り返している場合は、誤嚥の危険があるため無理に水分を与えず直ちに救急車を呼ぶことが重要です。一人でいる際の緊急時に備えて、家族や友人との連絡体制を整え、緊急連絡先を携帯電話に登録しておくことも忘れてはいけません。

これまでの常識では対応しきれない暑さが続く現代。熱中症から身を守るためには新しい警報システムの活用から、水分補給、室内環境の最適化、機能性を重視した服装選び、食事による体づくり、そして早期発見のスキルまで総合的なアプローチが必要です。「まだ大丈夫」「いつものことだから」と油断せず、今年の夏も一人ひとりが正しい知識を身につけ、家族や地域の人たちと支え合いながらこの厳しい暑さを乗り切っていきましょう。